鳥取県農協中央会不当労働行為救済申立事件 準備書面

平成18年5月9日

鳥取県労働委員会
 会長  太田 正志  様

申 立 人

鳥取西部農業協同組合労働組合
執行委員長  小灘 俊朗

東伯町農業協同組合労働組合
執行委員長  井本 敏彦

鳥取中央農業協同組合労働組合
執行委員長  田中 祐章

鳥取いなば農業協同組合労働組合
執行委員長  毛戸 貴弘

鳥取県信用農業協同組合連合会労働組合
執行委員長  木山 康宏

全国農業協同組合連合会鳥取県本部労働組合
執行委員長  田中 俊敬

全国共済農業協同組合連合会鳥取県本部労働組合
執行委員長  山本 正紀

準 備 書 面

1 平成18年(不)第1号鳥取県農協中央会不当労働行為救済申立事件について
(1)被申立人は、本件不当労働行為救済申立に関し、答弁書において不当労働行為に当たらないとし「本件申立を却下するとの命令を求める」と主張している。
(2)しかしながら、このような主張は、以下に述べるように全く合理的な理由を欠くものである。

答弁書に対する反論と団体交渉応諾義務について

一、反論の趣旨
1、被申立人の答弁書の「主位的主張の理由」にある「県中央会の申立人に対する使用者性否定」を否認する
2、予備的主張にある団体交渉事項及び団体交渉応諾義務には当たらないことを否認する

二、反論の根拠
1、使用者性の否認について
@ 労働組合法第7条におう使用者の意義に関しては、「被用者の労働関係上の諸利益に何らかの影響力を及ぼし得る地位にある一切の者」(出典:菅野和夫「労働法」)という学説が確立されている。
A また、「1つは、ある2つの企業が親子企業の関係にあり、親企業が子企業の業務運営や労働者の待遇につき支配力を有している場合に…(略)」、「2つ目は、ある企業が他の企業に対し一定業務を請け負ったりして、自己の被用者を当該他企業(受入企業)に提供している場合に、受入企業が提供された労働者(社外労働者)に対し『使用者』の地位にあるとされる事例…(略)」に関しても「労働契約上の使用者ではないが実際上それに近似した地位にある企業も不当労働行為を禁止される『使用者』と認められることがある」(何れも出典は前出)とされている。
B 一方、被申立人が申立人に対する使用者性否認の論拠として引用している判例の朝日放送事件は受入企業の使用者性に関して述べており、またブライト証券事件は持株会社と子会社の関係にある使用者性が判旨となっている。前者の場合はある企業が他の企業に対し一定の業務を請け負う派遣労働者を提供している場合であり、後者の場合はある2つの企業が親子企業の関係にあり、親企業が子企業の業務運営や労働者の待遇について支配力を有している例であって、いずれの場合も派遣先企業または親企業が雇用主以外の事業者であっても労働者の雇用・労働条件について現実的、具体的に支配・決定することができる地位にあるとして労働組合法第7条にいう使用者に当たるものとされており、上記Aで述べた学説と矛盾しない。
C しかしながら、同じく学説では「以上の親子企業、派遣受入れの類型でない場合でも、ある企業が融資や取引関係を通じて他企業の労働者の雇用・労働条件について現実的かつ具体的な支配力を発揮する場合には、その企業は当該他企業労働者に対し『使用者』とされうる」とされている。被申立人である県中央会(以下、県中と呼ぶ)は「予備的主張」で自ら認めているように、その指導機能を通じて会員である各農協の組織、事業及び経営の指導などの事業を行う組織であり、事実、直近では改正高齢者雇用安定法に基づく雇用延長(再雇用)のひな形を各農協に示し、各農協がそれに基づいた労使協約或いは就業規則を締結・改定していることからも明らかである。このことから県中の指導は現実的に申立人である各農協の労働者の雇用・労働条件に具体的な支配力を及ぼすと解すべきである。
D 従って、被申立人である県中が引用した2つの判例は本件に不相当であり、県中の申立人である各労働組合に対する使用者性を否定する論拠とはならず、上記Cで述べたような使用者に該当すると考えられる。

2、団体交渉事項及び団体交渉応諾義務について
(1)団体交渉事項について
@ 県中は東伯町農協(以下、東伯と呼ぶ)が平成16年度決算で多額の欠損金を出し、自己資本比率8%の確保が困難になった当時、東伯に経営改善中期3カ年計画を策定させ、あわせて同比率8%回復のために6億1千万円の第1回目の県内支援を実施させた。
 そして、平成17年4月には経済事業における専門的立場にある全農全国本部に対し、東伯の経営リスクを取り除き、合併に向けた条件整備を行うために畜産事業の改善方向と課題解決策についての検討を要請している。当該要請書はJAグループ鳥取県信頼推進本部(以下、推進本部と呼ぶ)委員長・県中会長の連記(いずれも竹中 登氏)で発信されているものの、これらの経緯からすると県中が推進本部の実質的利益代表の立場にあることは明々白々である。
A 推進本部は、畜産事業の不振や減損会計の導入等によって、東伯が単独で経営を維持することが困難であると予想し、県内の農協系統組織による東伯への52億円もの支援をはじめ、鳥取中央農協(以下、鳥取中央と呼ぶ)と東伯との合併やそれに向けた東伯の畜産事業分離策などを打ち出した。しかし、それらのスキームは明らかになったものの、特に畜産事業分離の具体的方策(内容)は未だに具体化されておらず、現状のまま推移すれば当該の東伯の労働者の雇用不安や雇用喪失すら招くことが想定される。
 また、前出の東伯に対する県内支援実施は、申立人らが就労している農協や連合会の経営体力の実質的低下をもたらすものであり、申立人らの労働条件の低下や雇用問題に直結する問題となっている。
B 申立人らはこれまで東伯問題に関する情報の開示を求め、県中に対し交渉申し入れを行ってきたが「東伯問題処理の協議を行う推進本部には県下の農協組合長もメンバーとして入っており、情報等を共有しているので、交渉はそれぞれの単組の経営者と行うべき」、「もともと雇用関係がない労組とは交渉できない」との主張を繰り返し、交渉を拒否してきた。しかしながら、各農協での労使交渉で経営者は「詳しい話は中央会で訊け。われわれには具体的な内容、細かい数字やその根拠は聞かされていない。わからない」の旨の発言を行っている。(甲第1号証、甲第2号証の1および2)。この事実から当該スキームを作成した実質的な権限と責任は県中にあると解することが妥当である。
C 更に、県中が上記スキームに関して3月6日に記者会見を行い、また4月5日には申立人らが提出した公開質問状への回答を行っている。このことから県中が推進本部を代表し、かつ責任と権限を有していると考えざるを得ず、県中が実質的に作成した当該スキームに関して申立人との団体交渉事項となることは当然である。また、それでも県中が申立人との団体交渉に応じないと主張するのであれば、52億円の県内支援、及び東伯町農協の畜産分離と鳥取中央農協への合併というスキームを誰の権限と責任で決定したのか明らかにすべきである。

(2)団体交渉応諾義務について
@ 前出の学説では、経営・生産に関する事項についても、「一般的にいえば労働条件や労働者の雇用そのものに関係ある(影響ある)場合ににみその面から義務的団交事項となる。たとえば、職場再編成の問題は、労働者の職種・就労場所などに関する限りで義務的交渉事項となる」と解されている。一方、上記(1)−Aで述べたように当該スキームが申立人らの雇用や労働条件に直結することは火を見るより明らかである。従って、県中は申立人との団体交渉に応じる義務を有すると考えるべきである。
A また、交渉実績という観点からすれば、県中は過去に労組からの交渉申し入れに応えてきたと言う経過がある。また、農協系統組織にとって重要な案件であった農林年金の厚生年金統合問題についても、その統合説明会に県中は労組の出席を要請し統合に向けた労使合意を図ろうとしていた。このように県労働組合組織との交渉や協議を実施してきた慣例や実績(甲第3号証)がある中で突然、雇用関係がない、委任を受けていないから交渉を拒否するという考えは理解できない。
B 前述した通り、東伯に第1回目の県内支援が行われた当時、県中は雇用・労働条件等の変更に対しても厳しく東伯を指導していることが、団体交渉議事録(甲第4号証の1〜7、甲第5号証)からもわかる。平成16年当時、当該の労組は一時金に関する交渉を行っていたが、経営者は「上部団体(県中・推進本部)の監視下に置かれており、経営者判断では労働条件の変更は行えない」ことを明らかにしている。
C 鳥取西部農協組合長は単組の交渉で「県中が何故交渉を拒否するのか判らない。県中の前坂専務の労働組合嫌いがそうさせているのだろう。今後労働組合にも相談する事項がでてくるから、意地を張っていても仕様がない」と交渉を容認すべき発言を行っている。(甲第2号証の2)
D 以上のことから、県中が予備的主張の理由のA−ウで「JAグループ鳥取信頼推進本部を構成する団体の代表者から、労働組合との交渉に関する委任は受けていない」という主張は失当であり、東伯をはじめとするの申立人らの労働条件及び雇用に影響を与えるこの問題に対して県中には団体交渉応諾の義務が存在すると解すべきである。

証拠方法

 1 甲第1号証     平成18年3月20日付け鳥取いなば農協労使運営協議会議事録
 2 甲第2号証の1  平成17年12月1日付け鳥取西部農協団体交渉議事録
 3 甲第2号証の2  平成18年4月13日付け鳥取西部農協労使運営協議会議事録
 4 甲第3号証     平成14年3月7日付け鳥取県農協中央会交渉議事録
 5 甲第4号証の1  平成16年12月10日付け東伯町農協団体交渉議事録
 6 甲第4号証の2  平成16年12月14日付け東伯町農協団体交渉議事録
 7 甲第4号証の3  平成17年4月1日付け東伯町農協団体交渉議事録
 8 甲第4号証の4  平成17年4月5日付け東伯町農協団体交渉議事録
 9 甲第4号証の5  平成17年4月7日付け東伯町農協団体交渉議事録
10 甲第4号証の6  平成17年7月14日付け東伯町農協団体交渉議事録
11 甲第5号証     平成17年8月3日付け鳥取県農協中央会交渉議事録